先月号では乳がん治療に女性ホルモンをブロックする薬剤(抗エストロゲン剤)を使用することを述べましたので、今回はその具体的な事例と不思議な作用について紹介します。 9年前の大分県立病院の外来。Aさんの胸部写真は肺転移巣が多発していることを示していました。乳がんの再発です。その3年前の手術の時点で既に肺に血行性転移をしていた乳がん細胞が年月を経てレントゲン写真に映るようになったのです。この日からトレミフェンという抗エストロゲン剤による治療が始まりました。Aさんの乳がん細胞にはエストロゲン受容体があってエストロゲンで増殖が促進されるので、エストロゲンの作用をブロックする薬剤で乳がん細胞の増殖を阻止しよという戦略です。嬉しいことにAさんの肺転移巣は縮小し始め、2年後には全く消失。9年後の今、Aさんは開業した私の外来に元気に通院しています。 《 乳がん予防効果 》 代表的な抗エストロゲン剤のタモキシフェン(TAM)の乳がん再発予防効果は、1996年に英国のオックスフォード大学で集計されLancetという英文雑誌に掲載されて世界中に発信されました。この研究結果の中には私が昨年まで在籍した大分県立病院の患者さんのデータも含まれていて、論文には大分県立病院の名前が英語で記載されています。 《 抗エストロゲン剤の不思議な作用 》 以上のようなの知見を踏まえて、私達、乳腺外科医は患者さんの年令や体質などを考慮しながら抗エストロゲン剤を使い分けているのです。
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