女性のシンボルの一つである乳房を乳癌のために失うことは、女性にとってショッキングなことです。近年、乳癌手術は「根治性(病気を治すこと)」と「美容性」を調和させた手術術式が工夫され、“乳癌は早期に発見すれば、生命も乳房も失わなくて済む”という時代が到来しつつあります。 《 一世紀前に生まれた乳癌手術 》 乳癌に対する手術は今から120年前にハルステッド(米国)が乳房、腋窩(ワキの下)のリンパ節、胸筋(大胸筋、小胸筋)を切除する方法を提唱して以来、長い間この術式が標準的な方法として行われてきました。この手術では乳房とともに胸筋もなくなるので皮膚の下に肋骨のラインが見えるようになってしまい、肩や腕の筋肉に負担がかかって肩こりなどの症状が多く見られました。 《 胸筋温存術 》 その後、胸筋を温存する術式が考案され、従来の筋肉を切除する方法と治療成績が変わらないことにより広く普及しました。しかし、たとえ胸筋を残したとしても“乳房を失ってしまった”という喪失感やボディイメージの変容は女性にとっては辛いことです。 《 乳房温存術 》 そこで、乳癌の部分だけを切除して乳房の大部分は残そうという試みが始まりました。この乳房温存術は欧米で生まれた術式ですが、この方法でも術後の生存率が従来の方法と大差ないことから世界中に広がりました。私達の施設でも開院して2ヶ月間に26例の乳癌手術を施行しましたが、そのうち11例(42.3%)の方は乳房温存術の恩恵に浴しておられます。ただ、“乳房が残っても乳癌が再発しては意味がない”という懸念から、シコリの大きさが3.0cm以下、乳頭からの距離が2.0cm以上の場合を対象とし、残存乳腺には放射線照射を行って再発を予防するようにしています。 《 乳房再建術 》 乳房全体を切除した場合でも、美容性を回復するために乳房再建術を行うことができます。これは形成外科の専門領域で、背中や腹部の筋肉・皮膚を利用して胸のふくらみを作る場合と、水の入ったバックを胸壁に埋め込む方法がありますが、いずれも乳房喪失に悩む患者さんには大きな福音となっています。 このように乳癌手術では数々の工夫を行っていますが、最近は「手術をしても臆することなく温泉に入ることができました」と喜んでおられる方も多いようです。私達、乳腺外科のスタッフは、全ての患者さんが早期乳癌で美容的な手術を受けられる日の来ることを願っています。 |